留学、ワーホリ、海外勤務…「海外経験」のメリット・デメリットを比較する
仕事柄、周囲に海外経験のある人は多いのだが、一口に「海外経験」と言ってもいろいろある。というか、そもそも「海外経験」という言葉は、その人に対して具体的にどんなバリューを期待しているのだろうか。
大まかに言って、「海外経験」で得られるものは以下の3つが主であると思う。
- 語学力。当然ながら。
- 人脈。海外だからこそ出会える・出会いやすい人のカテゴリーというのは、確かにある。
- 視野を広げること。日本社会を相対化することであったり、価値感の尺度を多元化することであったり。「海外についての知見・教養」は、これを構成する一要素でしかないので注意。
ここでは少々乱暴ではあるが、上記の3ポイントを切り口に、いろいろな「海外経験」について私の経験から整理してみたい。
数ヶ月の短期留学
- 語学:C
- 人脈:C
- 視野:B〜C
(期待できるリターンの大きい順にA、B、Cとする)
ちょっと冴えないようだが、実感をそのまま表してしまうとこんなイメージ。短期留学帰りで語学が上手だったり、視野が広かったりという人は、そもそも留学に行く前からそうだった人たちが多い。短期留学に行ったことでガラリと変わった人というのは、あまり見たことがない。
もちろん、人生一度は海外生活!という人にとってはかけがえのない思い出になるだろうし、時間的・金銭的制約が比較的小さいというメリットもあるので、選択肢として否定されるものではないけれど。
なお、数ヶ月というのは、良くも悪くも「醒める」ほどの長さではない。なまじ留学経験があるゆえに、「海外」が自分のアイデンティティの必須要素であるかのような、漠然とした憧れにとらわれているように見える人もいる。これはこれで生きづらそうなので注意されたい。
年単位の留学(学生)
- 語学:A
- 人脈:B〜C
- 視野:B
含むワーホリ。人によっては、文字通り人生の転機になっていることもある。
語学は単純に若いうちの方が吸収力が高いという面がやはりあって、これだけの期間行っていると、誰であってもほぼ必ず一定以上の成果を持って帰っているように感じる。
一方、人脈や視野の広がり方というのは人によって振れ幅がある。まず、元々の本人がどれくらい日本の外側に関心を持っていたか。あまり無かった(が、親の勧め等で留学に行った)人の方が、視座はガラリと変わる。
逆に言えば、元々アンテナの高かった人がさらに何か大きく価値観を揺さぶられたというケースは、あくまで基本は1ヶ国滞在(それも多くは先進国)ということもあってさほど多くない。
もう一つは、いかに自分の世界や日本人コミュニティに引きこもらず、現地人と積極的に関われるか。ある意味この部分は逃げようと思えばいくらでも逃げられる環境なので、本人の社交性の高さであったり、社交性は高くなくとも勇気を持って踏み出す意識の高さであったり、という部分がどうしても必要になってくる。
年単位の留学(社会人)
- 語学:A〜B
- 人脈:A
- 視野:B
社会人で留学しようという人は、基本的に相応の覚悟や目的意識を持って行っている(社費や国費で「与えられたもの」として、ただただエンジョイしようという魂胆の人もいない訳ではないが)。
なので、語学や学位といったハードスキルについては、年齢による吸収力の衰えを補って余りある熱意で、大抵の人は期待通りの成果を持ち帰っている。
また、それだけの目的意識のある人たちのコミュニティに触れるということも、社会人留学の特筆すべきポイントだろう。MBAなどは、むしろこちらを主目的に検討している人も多い。
旅行
- 語学:C
- 人脈:C
- 視野:A〜C
「旅行」というのもまた一言で括ってしまって良いワードではないかもしれないが、場合によっては侮れない。たかだか週末だけの旅行を、人生の糧にすることがすごく上手な人もいる。
日本人がやりがち(私自身もずっとやっていた)で非常にもったいないと思うのは、観光名所をあたかもスタンプラリーのごとく回るだけの旅行。もちろん、思い出になることはなるが、行って帰ってきたところで人間的には何も変わっていない。バックパッカーと言いながら、結局やっていることはそれに近い(但し、SNS用に「いかにもローカル」なシーンも何枚か写真に収める)ようなケースも少なくない。
個人的なお勧めは、「投資検討旅行」だ。それを教えてくれたこの本は、私の人生のオススメ本トップ3に入る(反響をいただいた前回の記事も、これをベースにしている)。
少額でいいから、その国の通貨での外貨預金なり、インデックス投資なりをするかどうか見極めることをテーマに旅をしてみよう。
こう言うと何かすごくビジネス・カネに偏った視点にも聞こえるが、そんなことはない。投資となれば経済・社会・文化の本質まで見通す必要が出てくるので、観光名所巡りよりもよほど、行き先の国のリアリティについて深く見つめることになる。
今はAirbnbのようなサービスもあるので、現地の人と繋がったり、話を聞いたりすることのハードルも下がっている。これはかなり楽しい。
読みが当たるにせよ外れるにせよ、旅から帰った後もその国の動きが自分の資産に直結するので、国際動向に対するアンテナも高くなる。それがまた、次の旅の仮説を考えることにつながったりする。何よりも色々な国を回って比較できることが、「旅」の最大の強みだ。
日本企業の海外派遣で働く
- 語学:B〜C
- 人脈:B〜C
- 視野:B〜C
すごく誤解されていることが多いのがこのケース。「ロンドンで4年、ニューヨークで3年働いていました」と言いながら、びっくりするぐらい英語が話せないような人は実は珍しくない。
大都市・大企業であればあるほど、日本人だけの場に留まっていようと思えばいくらでも逃げ場がある。得てして住環境も必要以上に整備されていて、海外での生活を切り開くたくましさが身につくわけでもなかったりする。
若い人たちのように「海外の空気を吸っているだけで勝手に語学が上達する」ような現象は、一定年齢を超えたら幻想と思った方が良い。「海外勤務希望」を否定するつもりは全くないけれど、行くなら行くで留学同様、得られるものは本人の意識の高さに大きく左右される。
海外現地採用で働く
- 語学:A
- 人脈:A
- 視野:A
この3つのリターンを得ることが「海外経験」のすべてではないだろうけれど、これらについて語る限りにおいては、海外企業の現地採用で働くことは全ての面で最強の選択肢と言ってよいだろう。また、その割には日本ではあまりスポットライトが当たっていない選択肢であるようにも見える。
このケースに当てはまる人と出会うようになったのは私がドバイに(日本企業から)派遣されて以降だが、本当にたくましいことに驚かされる。
あくまで「(英語があまり得意でない)日本人相手」と思って喋ってくれる英語と、単なる「現地人の一人」に対して話される容赦の無い英語というのはけっこう違うので、後者を相手にしているうちに、語学のレベルはいやおうにも高くなる。
人脈や視野というのは社会人留学のケースとはまた異なる意味合い。いわゆる意識高い系というよりも、自分個人をマーケットに晒しながらキャリアを模索することがごく当たり前な集団の中で人脈・情報を交換することになる。これは強い。
もちろん、この選択肢を取ろうと思ったらそもそもかなりの語学レベルが前提として求められるので、ハードルは低くない。それでもリターンの大きさを鑑みれば、もっと多くの人が考えても良いのにな、と思う進路だ。