話題の洋書:Coaching Habit(コーチングを習慣に)

Amazonのレビュー平均点4.9という、驚異的な数字を叩き出しているコーチングの本があったので思わず手を伸ばした。

著者は社会人向けトレーニングを提供しているBox of Crayons主宰、Michael Bungay Stanier。確かにとことん簡潔・実践的でありながら、表面的なスキルの話に終わらず、マインドセットのレベルから示唆のあるかなりの良書だった。 

The Coaching Habit: Say Less, Ask More & Change the Way You Lead Forever (English Edition)

The Coaching Habit: Say Less, Ask More & Change the Way You Lead Forever (English Edition)

 

 大前提:みんなアドバイスしすぎ。もっと質問しろ。

目の前の問題解決だけが課題なら、アドバイスを与えることはたしかに有効、かもしれない。しかし、本当にそのアドバイスは、自分が思っているほど的確なのか。

娘が「ちゃんとしてるのにちゃんとしなさい!って怒られるから習い事に行きたくない」と言った話。 - 日なたと木陰 

そしてそもそも、その問題を解くことは本質的な課題なのか。

常に「その場の最適解」を目指すマネジメントでも戦えたのは、例えばEメールが今のように”心の重荷”ではなく”画期的な便利ツール”であったような、2000年代以前の話だ。

人の処理能力をはるかに超えた情報が氾濫し、誰もが文字通り仕事に追い回されている今の時代に、この武器だけでは太刀打ちできない。にもかかわらず、目の前に問題があると、反射的に飛びついてまず解を探してしまう習性がみんなに根付いてしまった。

いま必要なのは、チームメンバーひとりひとりの「成長機会の最大化」、すなわちコーチングだ。目の前の最適解を自分が与えることより、相手がその後似たような問題を自分ひとりで解けるようになることの方が、トータルで稼げる生産性は遥かに大きい。

そのための最大の鍵が、「答え」ではなく、もっと「問い」を与える習慣をつけることなのだ。

1. 今、何考えてる?  (What's on your mind?) 

会話の切り出しをこのオープンクエスチョンから始める癖をつけよう。だらだらと雑談するのでもなく、勝手に問題設定をしてアドバイスをするのでもなく。

誰かを成長させようと思ったら、相手自身が何を考えて、何に悩んでいるのかから会話を始めるのは当たり前の話だ。

2. あと他には? (And what else?) 

相手の悩みや問題が一つ見えるやいなや、私たちの中の「アドバイスしたい病」が頭をもたげる。そこをぐっと堪えて、視野を広げよう。 

3. あなたにとって一番の問題は何? (What is the real challenge for you?)  

イシューからはじめよ。問題の解き方よりも、どの問題を解くかの選択の方がはるかに重要だ。

なお、「あなたにとって (for you) 」の一言は実はとても大事で、これが付いているか否かで、訊かれた人間の思考のクリアさは大きく違ってくることが心理学的に実証されている。

4. あなたが求めてるのは何? (What do you want?) 

イシューの根っこにあるのは何か。表面にある事象は十人十色だが、「自由」「承認」「安全」など、根源を突き詰めれば人間が求めるものは共通している。

このレベルまで落とし込んだ上で、どう解決できるかを探るとよい。 

5. 何か私が助けられることってある? (How can I help?)  

さぁいよいよイシューの根っこも特定できたから解決策についてアドバイスを、ではない。解決策の案だって、まずは相手に聞くべきだ。

必ずしもYesと答える必要は無いのだから、何も不安がらず、相手の考えとしては自分に何をして欲しいのか、分かったつもりにならず聞いてみよう。

6. 「Aである」というのは、「何ではない」ということ? (If you're saying yes to this, what are you saying to no?)  

個人的に最も好きな質問。世の中に「安易なNo」は少ないが、「安易なYes」はそこらじゅうに満ち溢れている。「戦略の本質は、何をやらないかを選択することだ」というポーターの明言も引用されているが、まさにそういうこと。 

「今年はバッティングと走塁と守備を頑張ろう!」と言っている野球監督は、ほぼ何も言っていないのと同じだ。

しかしこの質問を投げかけて、「どこか突出した強みを持ったチームは目指さ『ない』が、全て平均的にこなせることをチームの特徴にしたい」みたいな明確な答えが返ってくるなら、それはそれで立派な「選択」である。

自分が安易なYesを言ってしまいそうなときにも、相手の考えをクリアに見定めたいときにも、Noをきちんと定義することはきわめて有効だ。

7. 色々話したけど、今後あなたにとって一番役に立ちそうなポイントは? (What was most useful for you?)  

会話が終わって相手と別れる前に、この質問を投げる癖を付けよう。人はしょせん、一時的に学びを得ても、悲しいくらいすぐに忘れてしまう。意識的にそれを「学び」と認識させ、頭のなかで反芻させることによって、その定着度は大きく変わってくる。