話題の洋書:New Sales. Simplified.(シンプルな「営業」の法則)

日本でマーケティングや経営戦略の本はたくさんあっても、営業について読み応えのある本って少ないので、それはもうそういうものなのだと思っていた。なので、一応Sales Managerという肩書きで仕事をしてはいるものの、営業に関する本をしっかりと腰を据えて読んだことって実は数えるほどしかない。

が、「Sales」「Selling」で検索を掛けると、出るわ出るわ。単なる精神論でなく、体系的な方法論に落とし込んで「営業」を解析している良書が、何故か英語ではいくらでも見つかる。

とりあえずはレビュー評価の高いところからということで、今回読了したのはこちら。幾つもの会社を渡り歩いてことごとくトップセールスマンとなっている著者の集大成だけあり、読み応え抜群の大当たりだった。 

New Sales. Simplified.: The Essential Handbook for Prospecting and New Business Development

New Sales. Simplified.: The Essential Handbook for Prospecting and New Business Development

 

 ターゲットを絞る基準

まず営業担当たるもの、狙っていくべき顧客とその優先順位を聞かれて即答できないようではいけない。常にターゲット顧客のリストをかたわらに仕事をし、意図のある攻めを展開することが必要だ。

ダラダラとSalesforceのデータを眺めるよりも、とことんシンプルで具体的な「狙い所リスト」が頭に叩き込まれている営業マンこそが成果を挙げている。

狙いを定めるための切り口として、著者が勧めるのはまず以下のカテゴリーに基づいてターゲットの洗い出しを行うこと。

  1. 最も業界での支出額が大きい顧客
  2. 最も成長性が高い顧客
  3. 最も取引を失う危機に瀕している顧客
ある顧客が上記の複数に当てはまることも珍しくないし、であればなおさら優先順位は高いということになる。 

営業ストーリーを磨く

本書最大のポイント。ターゲットをどのように「落とす」のか、ストーリーを徹底的に磨く必要がある。これはトーク技術みたいな次元の話ではなくて、顧客に自社を選んでもらう根本的な理由を、きちんと整理する作業に他ならない。中でも、「顧客の抱える問題・欲求」「差別化ポイント」に最大の力点を置く必要がある。

既存の取引のない見込み客を相手にする場合はなおさら、聞き手の99%は、百歩譲ってセールストークに付き合ってやっていても、「いかに自社商品が優れているか」の説明に興味などない。見込み客を惹きつけるのはむしろ、相手の問題・欲求に切り込むストーリーだ。仮に自家用車を例にするなら、

「納車までは良いけれど、アフターサービスのレベルが納得できるものだった試しがない。車の購入時に散々値切りをしたけれど、後に少々のメンテナンスで費用の高さにうんざりした。(その他、車を買う人が抱えがちな問題・欲求を数例)そういった悩みをお持ちのお客様が、当社のリピーターになられることが多いです」

こんなイメージ。問題・欲求が見込み客にとって的を射た「あるある」であればあるはど、自社商品の説明を押し出さずとも、相手は自然と惹きつけられる。

この切り出しで最低限、話に興味を持ってもらった上で、初めて今度は自社の特徴について説明をするフェーズになる。しかしこれもまた、自社目線の「絶対評価」の話は皆聞き飽きており、また興味を失われる。他社目線の「相対評価」、つまり差別化要因を常に軸にして話を展開することが大切だ。

こういったストーリーを常に頭に置きながら営業をしていれば、自ずとそれは態度にも現れる。いかにも「セールスマン的」な、必要以上のへりくだりは、自分が見込み客であったら逆に距離を置きたくならないだろうか。

むしろ「自分は他社と確かな違いを持っていて、相手の問題・欲求を解決するために来ているんだ」と腹の底から思えていれば、自信に満ちた自然体の姿勢で見込み客とも接することができるし、実はその方がよほど相手の警戒心も自然と解かれるのだ。

断固、実行する

ターゲットを絞り、ストーリーを磨き込んだら、あとはそれを実行に移すことだ。

新規顧客を1日開拓しなくても、大きな問題は起きない。一方で既存顧客からの問い合わせは日々絶えずせわしい。結果、1月経っても1年経っても見込み客の開拓にまとまった時間を割くことなく、毎年のように「今年は新規顧客開拓を頑張ろう」とむなしい決意を重ねるのはお決まりのパターンだ。

著者曰く、「セールスマンは心臓外科医ではないのだから、あなたが既存顧客を半日放ったらかしたところで、人が死ぬことはない。『落ち着いたら』なんて思っていてもそんな時は永遠に来ないのだから、新規顧客開拓は日々時間を確保して実行すべき」と。

このロジックには個人的には引っかかる部分もあるものの、それはまた別の機会として、著者が勧めるのは「タイムブロッキング」。

タイムマネジメント」については世の中にはさまざま手法が溢れているが、そんな複雑なものはいらん、シンプルに必要なアクションを取る時間を事前ブロックし、何があっても断固「自分とのアポ」を守る、これに勝るものはないと一刀両断。これは実践してみるとけっこう正しい。結果を出している著者ならではの有無を言わせぬ説得力である。