ヨーロッパ最貧国、ウクライナ探訪記
ウクライナといえば1人あたりGDPでヨーロッパ最貧国に位置し、政治・経済両面で困難にあえいでいる。にもかかわらず、今回の旅を通じての私の仮説は、この国は長期的に見て「今が旬」ではないかということだ。旅行するにも、ビジネスをするのにも、である。
と、言いつつ、今回は結論を急がず、徒然なる旅行記形式で。
搭乗ゲートから、何かが違う
ドバイ国際空港は、大まかにいって次のようにターミナルを使い分けている。
ターミナル1:下記以外の航空会社
ターミナル3:エミレーツ(言わずと知れたドバイのメインエアライン)
今回はフライドバイだったのでターミナル2。エミレーツのターミナル3に比べ、ターミナル1と2は露骨に設備がショボい。この国は、経済の大黒柱であり躍進の立役者であるエミレーツを超厚遇することに躊躇がないのだ。
一番顕著なのはトイレで、客層やメンテナンスの違いもあって正直かなりバッチい。そうは言っても生理現象に逆らう訳にいかず、私と同僚2人は朝からげんなりさせられた。
ところが、だ。いざ搭乗口へ向かうと、突如として挙動不審に陥る男3人組。美女、美女、美女。見目麗しい女性の多い国というのは知っていたが、それにしても実際に目にすると「質・量」ともに圧巻である。
いつもテンションの下がるターミナル2で、予想外の胸の高まり。…を、必死に抑えて平静を装いつつ、いざキエフ行き直航便に乗り込んだ。
中東→中央アジア→東欧
ペルシャ湾を越えて、イラン→トルコ→黒海→ウクライナ、と上空を進んでいく。
荒涼とした山々が広がるイラン、
緑が混じりはじめるトルコ、
そして緑豊かなウクライナ。
約5時間のフライトを経て、キエフへ到着。着陸直後の「アップ」の市街地は至って平凡だが、その前の「引き」の風景はなかなか特徴的だ。
平地でこれだけ偏った土地利用というのはまず見たことがない。旧ソ連圏に入るのは初めてだが、「見えざる手」に委ねない、計画経済ならではの帰結かもしれない。
とにかく安い、そして美味い
例えばビールの値段がこれ(1フリブニャ=約4円強)。かなり良いレストランで、大の大人が値段を気にせず満足いくまで飲み食いしても、日本円換算で2000円を超えることはめったにないと言っていい。
料理で有名なのは何といってもボルシチだが、チキンキエフという、とろけるバターを閉じ込めた鶏肉の揚げ物なども実にうまい。総じて日本人の味覚にはヒットするはずだ。
観光するなら、王道はロシア正教の寺院巡り。趣向を変えたければ、チェルノブイリツアーというのもある。原発事故跡は今は観光地化されていて、ガイガーカウンターを持ちながら廃墟を巡るツアーが流行っているのだ。未だ毎年莫大な費用を掛けて対策を強いられているチェルノブイリを、少しでも収入源に活用しようという取り組みである。
とにかく、今は何をしても安い。人気スポットが密集しているようなザ・観光地ではないが、コストパフォーマンス的には現在トップクラスの旅行先だろう。
「ヨーロッパ最貧国」のリアル
いわゆる「ウクライナ問題」を超ざっくり捉えると、以下のような流れになる。
- 第二次大戦前、ソ連がウクライナの東部を弾圧・同化
- ウクライナ東部はロシア人の街となり、産業集積、経済規模が拡大
- 21世紀になって欧米がウクライナ取り込みを図り、西部に根強く残る反ロシア感情を煽って親欧米政権成立
- とはいえロシア化した東部なくして経済は成り立たない状態、かつ生命線である天然ガスの元栓はロシアが握っている
- 新欧米政権と距離置き独立を図る東部・ロシア派と、それを認めない西部・政府派が衝突
つまり、根っこの根っこを辿れば旧ソ連が悪く、感情面の反発は根深いのだが、もはや現実的にはロシアを大事にやっていくのが最適解。それを国民の大部分は薄々分かって折り合いをつけていたのに、欧米のちょっかいで知れ切った混乱に陥ってしまったのだ。
なので、実際に訪れたキエフ(西部に属する)は驚くほど悲壮感がなかった。政治家たちが「作られた民族感情」で色々やっている一方、国民の多くは、本気でロシアをやっつけろというムードではない。
輸入品(分かりやすいのはタクシーの車両)こそ充実していないものの、インフラは決して貧困国のそれではないし、人々の教育レベルも高い。唯一、東部での戦闘がGDPを「実力値」よりも押し下げてしまっており、これに国民みんなが本気で血道を上げているのであればまずいと思ってたが、そういう訳ではないことが今回良く分かった。
長期投資の鉄則は基本的に「過小評価されている焼け野原を買え」ということなので、これに勝るエリアは今なかなかないだろう。ウクライナ侮るべからず、だ。